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Decision Resources Group Japan Branch

新型コロナウイルスが世界の医薬品産業政策にもたらす5つの変化(1)

新型コロナウイルスが世界の医薬品産業政策にもたらす5つの変化(1)

米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界の医薬品産業政策にもたらす5つの大きな変化を3回に分けて紹介します。

  1. グローバルサプライチェーンの強化(第1回)
  2. データの活用促進(第1回)
  3. 臨床試験と承認の迅速化(第2回)
  4. 医療技術評価プロセスの変化(第2回)
  5. 医療への投資拡大と薬価抑制(第3回)

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

【1】グローバルサプライチェーンの強化

COVID-19が世界的に流行する中、各国政府は医薬品の製造・供給・調達を円滑化し、サプライチェーンの国内回帰を奨励する動きを見せている。

パンデミックによる医薬品サプライチェーンへの影響を懸念する各国政府は、医薬品の不足を未然に防ぎ、サプライチェーンを安定させるための政策に関心を向け始めている。これには、適切な在庫と供給を確保するための報告要件の強化や、医薬品をより迅速に患者に届けるための簡素化された中央集権的な調達政策などが含まれる。

医薬品の供給・調達プロセスは、もともとはそれぞれの地域で完結するのが普通だったが、近年は、国境をまたぐ問題に効果的に対応するため、国家や行政区域の枠を超えた広域的な連携が行われるようになった。コロナ禍にある現在は、重要な医薬品を自国で生産しようという機運が高まっている。これは、パンデミックが医薬品サプライチェーンにもたらす影響として永続的なものとなるかもしれない。

在庫の監視

各国政府は、国内のサプライチェーン確保に向けて素早く動き出している。多くの場合、政府は特別措置という形で、報告要件や買い占め防止策といった施策の遵守を義務付けた。当局は製薬企業に対し、サプライチェーンの監視と在庫の報告、そして欠品防止策の報告を求めている。

製薬企業はまた、そうした在庫報告に記載した必須医薬品を公衆衛生施設に供給することや、欠品を防ぐための生産計画を提出することを命じられる。スペインでは、当局が企業に対して必須医薬品を優先的に生産するよう強制できる権限を行政区域に与えた。緊急時への備えとして、中央集中型の医薬品在庫システムを活用したり、構築を進めたりしている国もある。一方で、例えばドイツの連邦医薬品医療機器研究所(Federal Institute for Drugs and Medical Devices=BfArM)からは、個々の企業や医療機関が大量に医薬品を備蓄することを禁じる命令も出された。

製薬企業は、抗がん剤や免疫抑制剤といった特に重要な医薬品の在庫を徹底的に監視するよう要求されている。治験実施中の薬剤、そしてCOVID-19の治療に使われるミダゾラム、プロポフォール、アトラクリウム、ロクロニウムなどの薬剤は、日常的に特別慎重に管理する必要がある薬剤だ。慢性疾患向けの医薬品でCOVID-19の治療に使われるものも、欠品や重度の有害事象が発生していないか、定期的な監視が求められる。

業界団体もまた、政府の助言を待つばかりでなく、率先してサプライチェーンの破綻を最小限に食い止める取り組みを行っている。日本製薬団体連合会はいち早く、医薬品の供給途絶を未然に防ぐための計画を策定した。業界向けのこの行動計画では、企業に自己チェックリストが提供され、在庫に問題が生じた場合は、関係者が同一もしくは代替の原薬を供給しているほかのメーカーと調整を行う。

調達の円滑化

規制当局は、サプライチェーンを補強し、治療を円滑に行うため、製造・供給・調達における既存の施策を効率化するための動きを見せている。その1つが承認の迅速化だ。フランスやポーランドのように、COVID-19の治療に緊急に必要とされる場合は、通常の調達要件を免除して直接購入することを可能にした国もある。英国など規模の大きい市場では、重要な治療薬を生産しやすくするため、簡略化されたGMPプロセスが広く採用されている。

広域的な連携も活発だ。欧州医薬品庁(EMA)が欧州全土で主導している取り組みでは、EMAの既存組織と各国との連携によって、薬剤の調達をより中央集権的に、あるいはさらに柔軟に行えるようにし、パンデミックに対抗しようとしている。細かく分断された調達システムを統合する試みの中で、スペインやイタリアなどの市場では、中央集権的とは言えないまでも、より体系的な連携への関心が高まっている。

サプライチェーンの国内回帰と分散化

パンデミックが始まって間もなく、重要な医薬品のサプライチェーンが破綻するのではないかとの懸念が世界中に広がった。米国や欧州、日本などは、原薬の供給を他国に大きく依存している。

輸出の凍結をほのめかす国や、医療物資の輸入を有利に進めようとする国もあり、供給不足の不安は募った。そうした懸念がはっきりと現実的になったのは、主に個人防護服と検査の分野だったが、製薬企業も規制当局も医薬品のサプライチェーンがいかにグローバルな繋がりに頼っていたかを自覚せざるを得なかった。とりわけ、原薬についてはそうだった。

その結果、多くの国は、輸入への依存度を小さくしようと、サプライチェーンの国内回帰と分散化に目を向け始めることとなった。緒に就いたばかりの構想が根を下ろし、国内サプライチェーンが重視されるようになるとすれば、それはパンデミックが世界の医薬品生産にもたらす永続的な影響の1つとなるだろう。

当初危惧されたほどの規模ではなかったが、特定の重要な物資の輸出を禁じた国もある。コロンビア当局は、COVID-19との戦いに欠かせない医薬品や医療物資の輸出を禁止した。インドも、サプライチェーンが破綻するおそれがあるとして、26種類の原薬と医薬品の輸出を一時的に制限した。これはインドの医薬品輸出量の10%に相当する規模だ。

インドは海外からの要請を踏まえ、13の原薬とその製剤については輸出禁止を解除した。これによってほとんどの医薬品は自由に輸出できるようになったが、ヒドロキシクロロキンとパラセタモールには依然として輸出制限がかけられており、輸出する場合は政府の特別な許可を得なければならない。各国の政府も企業も、こうした製品は国外の供給ショックの影響に弱いものだと気付いたことで、医薬品製造の国内回帰を真剣に考えるようになってきている。

おそらく政治的に最も注目すべき動きは、ドイツのペーター・アルトマイヤー経済相が、汎ヨーロッパ的な医薬品生産能力向上計画に賛意を示したことだろう。他業界とも連携してEU内生産を推し進めるという、すでに動きつつある構想に言及したアルトマイヤー氏のこの発言は、原薬生産をインドや中国に大きく依存している現状を変えたいという気運に対し、EUの重要人物が表明した最も明快な支持だった。ドイツでは、必要な生産拠点を国内に設けるライフサイエンス製品メーカーへの支援も検討されている。

医薬品供給の約8割をアジアに依存しているフランスでは、同国の製薬業界をリードするサノフィが、将来のサプライチェーンの破綻がもたらすコストを補填するため、国内に原薬製造工場を新設する計画を発表した。新会社は原薬製造とマーケティングを担当し、販売と原薬開発の活動を欧州各地の6つの原薬製造工場と連携して担うという。この全欧州的な事業体の設立は、従来の原薬サプライヤーへの依存度を大きく下げることにつながるものだ。サノフィは、新会社の2022年の予想売上高は10億ユーロで、世界2位の原薬メーカーになる見込みだとしている。

2020年5月、米保健福祉省(HHS)は、医薬品サプライチェーンに関する自らの懸念に応える発表を行った。それによると、HHSはフロウ社を中心とする民間企業グループと協力し、米国での医薬品製造を拡大する。加えて、米国の当局者らは、自国のヘルスケアシステムがパンデミックの間に必要とする原薬の優先順位リストを作成しているという。この構想を進めるため、HHSの生物医学先端研究開発局(Advanced Research and Development Authority=BARDA)は、4年間の契約期間に3億5400万ドルの予算を割り当てる。

多くの国がサプライチェーンの国内回帰を目指す中、中国以外への工場移転に対する支援を打ち出した最初の国は、原薬を中国に大きく依存している日本だ。これは、パンデミックだけでなく、2019年に抗菌薬セファゾリンの供給が逼迫したことも動機の1つになっている。

日本政府は2020年4月、中国から日本への工場の移転を促進するために2200億円の予算を組んだ。また、日本以外に工場を移す企業には235億円を用意している。政府の計画では、新たな生産拠点における製造設備の整備費の約50%が補助金によってまかなわれるという。こうした制度があれば、将来、ライフサイエンス製品メーカーはさまざまな地域で事業を展開することができ、グローバルな医薬品サプライチェーンの破綻を最小限に食い止められるようになるだろう。

 

【2】データの活用促進

政策立案者がリアルワールドの患者データを重視するようになったことで、革新的な治療法の開発と承認において、リアルワールドエビデンスへの依存度が高まった。

COVID-19への医療システムの対応は、検査と追跡の改善による予防と発見を優先してきた。当局がパンデミックの範囲を把握する試みを続ける中で、より広範な検査と接触社の追跡は、現在も進行中の社会的・経済的な制約を緩め、医療機関のキャパシティを確保するための戦略を成功させる重要な一歩となるだろう。

そのため、迅速かつ広範な検査方法への関心は世界中で高まっている。その結果、新たな検査方法の追求と健康データの革新的な利用が促進され、最終的には、リアルワールドデータに対する医療システムのアプローチを再考する道を開くことになるかもしれない。

新たな検査法を取り巻く資金調達とイノベーション

各国は、現地で開発された診断法だけでなく、移動式検査装置を含む新しい診断法にも広く投資している。パンデミックの進行に伴って期待される検査数の拡大に対応するため、国内の検査体制を増強している。多くの国では、現地のメーカーと保険当局が協力して新たな検査方法や検査装置を開発しており、迅速検査や移動式検査が主な焦点となっている。

英国では、政府から3億ポンドの資金が地域社会での検査・追跡の取り組みを支援するのに割り当てられた。国民保健サービス(NHS)やその他の関係者が協力して、ウイルスの拡散に関するデータを共同バイオセキュリティセンターを通じて地方自治体と共有し、ウイルスがどのように移動しているかを追跡する。

この取り組みは、テスト・アンオ・トレース・サービスの全国的な展開を強化するもので、2万5000人のコンタクト・トレーシング・スタッフを介して広範囲の検査と追跡を可能にするための取り組みだ。こうした新しい方法の急速な不休は、ソリューションを市場に投入しようとする規制当局にとって、新たな課題を生み出すことになるだろう。

リアルワールドデータへの依存度が高まる可能性

COVID-19との戦いで各国の政府は、疾病の追跡をサポートするため、保険金請求データや健康記録を活用するなど、リアルワールドデータへの関心を高めている。

オーストラリアでは、COVID-19の医学研究を支援し、医療システムと治療の必要性に関する洞察を提供するため、医療保険請求書や電子カルテの情報を匿名化して統合することを検討している。ドイツでは、電子カルテは疫学的な目的で公衆衛生データを報告する際にも有用であることが証明されている。このデータが有意義な形でまとめられれば、投薬やその他の治療の必要性、さらには医療システムの対応力といった観点から、将来のステップへの道しるべを提供することができるはずだ。

英国ではすでに、ビッグテック企業と共同開発した接触者追跡アプリを通じて患者データを収集しており、前述のテスト・アンド・トレース戦略の一環として展開されている。NHSは、最終的には集計された匿名データをさらに活用し、COVID-19データストアを作成し、治療や医療供給の必要性をリアルタイムで分析するとともに、疾病の広がりをリアルタイムで把握することに関心を持っていると言われている。これは最終的に、薬剤の処方や検査結果を追跡することを可能にする。

健康情報や疾病サーベイランスデータを収集し、より重要なことを効果的に共有する能力がすでに十分開発されている政府は、このような取り組みでより有利な立場にある。逆に、保健に関する権限が分断されている国や、保健記録の保持応力が十分に発達していない国では、今後のパンデミックへの取り組みで患者データを活用する上で、大きな困難に直面することになるだろう。電子カルテから適切なデータを抽出する技術的・組織的能力を持つ数少ない国でさえ、情報共有に課題があることがすでに証明されている。

リアルワールドデータをより大規模かつ革新的に利用することは、世界の保健システムにとってゲームチチェンジャーとなるだけではない。製薬企業や医療機器メーカーにとっても、当局によって特定された緊急のニーズに対応することで、パンデミックの公衆衛生への影響を軽減するためのさまざまな機会を創出することになるかもしれない。

効果的な健康情報の生成と共有の重要性を目の当たりにする中、このデータのより広範な利用法の開発も期待されている。一方、機密性の高い患者データの新たな利用法が登場したことで、データを非公開とすることの重要性も増し、拡散していくと予想される。

(原文公開日:2020年7月8日)

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。本記事の原文はこちらです。

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