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Decision Resources Group Japan Branch

ビッグデータ その可能性を引き出すための欧州規制当局の取り組み

ビッグデータ その可能性を引き出すための欧州規制当局の取り組み

米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回は、ビッグデータを新薬開発や承認審査に活用するための欧州規制当局の取り組みを紹介します。

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

活用策をタスクフォースで検討

製薬やバイオテクノロジーの業界は進化を続け、技術革新が加速している。リアルワールドデータ(RWD)、ゲノミクス、メタロミクス・データセット、ウェアラブルデバイス、ヘルスケアアプリといった様々なデバイスやプラットフォームを通じて、かつてないほど大量の医療データがリアルタイムで収集されるようになった。

2017年、欧州薬品庁(EMA)と欧州医薬品規制首脳会議(HMA)は、医療ビッグデータの活用を検討するタスクフォースを共同で立ち上げた。この“ビッグデータタスクフォース(BDTF)”に求められるのは、規制の枠組みが変化している中で、ビッグデータの利用に関する推奨事項を立案し、従来型の臨床試験に大きく依存しているリスク・ベネフィットの判断軸を、より広範なソースへと移していくことである。

ビッグデータという言葉はすでに広く使われているが、単一の定義は存在しない。BDTFでは次のように定義している。

「雑多、多元的、非構造的かつ不均一な、極めて大型のデータセット。蓄積が急速に進んでおり、コンピューターによる解析でパターンや傾向、関連性を明らかにすることが可能。一般的に、信頼できる条件の下で大型のデータセットから何らかの回答を引き出すには、高度で専門的な手法が必要」

ビッグデータをこう定義した上で、タスクフォースが「フェーズI」で主な目標としたのは、欧州経済地域(EEA)の医薬品規制当局がビッグデータを活用する上での課題や可能性を見極めることだった。具体的には次のような作業である。

▽データのソースと特性の明確化、収集データに想定される主要フォーマットの定義化▽医薬品規制に対するビッグデータの適用可能性と影響の探求▽法律、規制ガイドライン、データセキュリティからの要求に対応するために推奨される事項の立案▽製造販売承認と臨床試験の評価に向けてビッグデータの性能を高めるためのガイダンスの策定――。

 

規制当局の能力が不足

タスクフォースは昨年2月、ビッグデータ活用の展望と可能性を考察したフェーズIのレポートを発表。この中で、データの品質と標準化、データの共有とアクセス、ビッグデータ解析の規制上の許容性に関する推奨事項が示された。タスクフォースでは、ビッグデータへの取り組みの参考とすべく、EEA以外の規制当局やパートナー(米国食品医薬品局やカナダ保健省など)と協調する手法がとられた。

BDFTのフェーズIでは、ビッグデータ活用に必要な「what」が示されたが、フェーズIIではこれに続いて「whici」「how」「when」にまつわる問題に取り組んだ。優先したのは、推奨を実行するための具体的なアクションを確立することだ。

技術の進歩で大量の非構造的データのデジタル化が可能になっており、この知見やエビデンスを当局がどう受け入れるのか、ということを明確にする必要性が高まっている。大量の非構造化データを分析するには、追加の再分析によって結果を検証する必要が生じることが多い。ただ、そのためのリソースと能力がEUの規制ネットワークには不足している。この点が、ビッグデータへのアクセスの低さとともに活用の大きな障壁の1つとなっていることが、BDTFによって確認された。

もう1つの重要なポイントは、EUの規制ネットワークを強化し、先端技術と新たな解析手法で生成するビッグデータ由来の解析を先導し、批評的に解釈することで、信頼できる結論を保証しなければならないことである。

 

データベースネットワークを創設

今年1月に発表されたフェーズIIのレポートでは、BDTFがビジョンとして立ち上げたものを実現するための方策と推奨事項が次のように示された。

「データ分析をその評価プロセスに効率的に統合でき、より良い意思決定が可能な強化されたシステムとすること。その後押しとなるのは、データソースの知識、その品質と欧州の患者集団との関連性、データ品質と分析手法の継続的な最適化、安全かつ倫理的なデータシェアリングの気風を向上させることである。

専門知識の構築には、訓練や外部とのコラボレーションが重要となる。新しい技術やビッグデータから生成されたエビデンスに、いつ、どのように頼るのかということについて理解することが、医薬品開発の加速、治療成績の向上、新しい治療への早期アクセスにつながり、公衆衛生上の利益となる」

さらに野心的なのは、2023年の稼働を見込む「DARWIN(Data Analysis and Real World Interrogation Network=データ解析とリアルワールド照合ネットワーク)」の創設だ。DARWINは、品質と内容が明らかなデータベースの欧州ネットワークで、最高レベルのデータセキュリティを使用して、意思決定機関にロバストなエビデンスを提供する。

このほかにBDTFが推奨したのは、▽ENCePP(European Network of Centres for Pharmacoepidemiology and Pharmacovigilance=薬剤疫学・ファーマコビジランスセンターの欧州ネットワーク)データベースの範囲と有用性を拡大すること▽ほかのEUおよび国際的な組織(Global Alliance for Genomics and Healthなど)と緊密に作業するようEU規制当局に助言し、規制当局が使用できる医療データソースを増大させること――など。EUの各規制当局(EMAと各国の関係省庁)がビッグデータを活用するために負担するコストは、2700~4500万ドルの初期資金に加え、年間約900~1800万ドルに上ることも判明した。

レポートではこのほかにも、▽データの品質と評価基準に関するガイダンス▽エビデンスの許容性に向けたガイドラインの策定▽関連データソースの明確化による利用可能なエビデンスの増強――といったことが推奨された。さらに、RWEとビッグデータを医薬品開発に活用するための知識の向上、ITインフラの更新、安全かつ倫理的なデータシェアリングの確保に対する取り組み方についても助言している。

また、ビッグデータ関連の訓練とデータ規格に関する多国間の規制調和の取り組みを強化することで、EUの規制ネットワークの能力を向上させるという提案もなされた。今のところBDTFの推奨事項は、技術や運用に向けたものではなく、既存または将来のツールをより適切に活用できるように関係者をサポートすることに重きを置いている。

 

レベルアップには投資が必要

世界各国の規制システムは、データ環境の進化を理解した上でレベルアップしていかなければならず、それには投資も必要になる。米FDAが、センチネルシステム(FDAが規制している医療用製品の安全性を監視する全国的な電子システム)に、過去10年で約10億ドルを投資したことは、その一例だろう。

Canadian Network for Observational Drug Effect Studies(CNODES=観察的薬剤効果研究のためのカナダ・ネットワーク。カナダで販売されている医薬品の安全性・有効性のデータを収集する医療データベースのネットワーク)は、年間のコストが約550万ドルに上る。日本にも、医療情報データベースネットワーク(MID-NET。医薬品の安全性を評価するために設けられた病院データネットワークシステム)がある。

とはいえ、規制当局が直面する意思決定上の課題をビッグデータですべて解決できるわけではない。現在、承認の意思決定ではランダム化二重盲検比較対照試験が用いられるのが一般的だが、そうした試験では、明確な組み入れ/除外の基準と実施計画に基づいたデータ収集を可能にすることで、潜在的なバイアスと交絡因子を減らしており、補完的エビデンスの生成は「付け足し」とみなされる。既知の制約(データ収集における品質管理の欠如など)を伴う大規模な手法はゴールドスタンダードに代わるものにはならないが、臨床試験では検出できない有害事象を中心に、意思決定の促進と向上に資する貴重なツールにはなるだろう。

2020年2月現在、BDTFのフェーズIIの推奨と提案は欧州委員会で検討されている。実現すれば、専門知識を構築し、有意義で大規模なデータセットを構築・解釈して結論を導き、EUの公衆衛生を改善すると同時に新方式の評価に裏付けを与えることを目指すEU規制当局にとって、大きな一歩となる。

(原文公開日:2020年3月16日)

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。本記事の原文はこちらです。

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